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介護業界の現実を直視した社会派ミステリー「ロスト・ケア」

 

ロスト・ケア (光文社文庫)

ロスト・ケア (光文社文庫)

 

 

「絶叫」が面白かったので葉真中顕の処女作であるロスト・ケアを読んでみた。未曾有の数の老人に手をかけながら、一切の罪悪感を感じない犯人が通ってきた過酷な過去とは? 介護制度の矛盾、人間の威厳、倫理と罪悪感など、さまざまなテーマを盛り込んだヘビーで読みごたえのある一冊だった。

 

それなりにミステリーは読んでいるので、表紙や帯を見て、登場人物が出てきた段階で、話の筋書きはおおむね読めた。でも、犯人逮捕までの経緯に意外性があり、ミステリー小説として楽しめた。犯人までどう行き着くか、そして誰が犯人なのかは見抜けなかった。

 

読みどころは介護で日々疲弊していく親子や介護職員の描写と、大量殺人をとがめる検事と罪悪感を感じない犯人との最後のやりとり。なにが罪なのか、なにが悪なのか。読者は倫理観を大きく試される。介護する老人を殺めることで、家族が救われるという矛盾に介護現場の出口のない課題の深さを痛感する。

 

目を閉じてはいけない、直視しなければならない問題。介護を避けて通れないアラフィフとしては、なんだか首にナイフを突きつけられたように刺さるまさに社会派小説だ。