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小泉今日子に青春を捧げた十代を描いた「オートリバース」にアラフィフ悶絶

1980年代、小泉今日子にすべてを捧げた二人のティーンエイジャーを鮮烈に描く「オートリバース」読了! 白いパラソル」がザ・ベストテンのトップとなった1981年9月から、「ヤマトナデシコ七変化」が1位に上り詰める1984年11月までの3年間を80年代汁満載で凝縮。怒り、笑い、恋、友情、そして生と死。小泉今日子本人にまで取材したリアルな青春物語にアラフィフは涙が止まらない。

 

オートリバース

オートリバース

 

 

話は福岡から千葉に越してきた男子高校生が、同じく引っ越してきた同級生と出会うところからスタート。松田聖子中森明菜に続いてトップアイドルの道を歩き始めた小泉今日子ザ・ベストテンの一位にしたいと意気投合した二人は親衛隊となり、さまざまな経験を経て大人として成長していく。ピュアなファン魂から始まった親衛隊の活動は、のめり込むとともに、異なった方向に暴走してしまう。暴走の果てはほろ苦い終わりを迎えるのだが、同時に小泉今日子はついに一位に上り詰めるという流れ。

 

高崎さんの本は初めて読んだのだが、なにしろ1980年代の空気をリアルに伝える描写が素晴らしい。

ウォークマンじゃないじゃん」
たしかにウォークマンを名乗れるのはソニーだけだ。直の手にあるのは正確にいうとアイワのカセットボーイだ。

このフレーズだけで、あっという間に懐かしき十代の思い出トビラを開けてしまった。そもそも「オートリバース」がカセットテープを知っている世代に向けての書名だし、そのほかにも「平安京エイリアン」「ボム」「タケノコ族」などアラフィフホイホイのキーワードが満載。校内暴力が日常的で荒れた80年代、粗暴で、解像度が低かった昭和の空気をひしひしと感じられる文体やフレーズが魅力的だ。

 

「推し」という概念も、ネットもなかった当時だが、これを読むと、ひたすらアイドルを想う純粋なファン心は、今も変わらないことがわかる。小泉今日子をベストテンの一位にするため、ひたすら電リクやハガキを出し続ける二人。しかし、学校や家庭に居場所を失い、アイドルの親衛隊に居心地のよさを感じていた主人公たちは、時代の波とその先鋭性が「暴力装置」という間違った方向に進み始めてしまう。

 

そして、本人も登場するラストのせつないこと。おニャン子クラブが台頭し始め、90年代の風が吹き始める最中で、アイドルファンの概念が変わり、オタクという人種が認知され、主人公は大人へと成長していく。その過程での最後のタイトル回収がまたうまい。

 

80年代に青春を送った人に加え、いまのアイドルオタクにもぜひ読んでほしい。