石山本願寺に十万石の兵糧を運び入れるべく、毛利方が協力をあおいだ村上水軍の第一次木津川海戦を描いた大作。上下2冊読了しました。
Amazonでのレビューにあるとおり、ヒロインの景が泉州に渡って、石山合戦にからんでいく前半はやや冗長。後半の木津川海戦の描写はさすがに和田竜という感じで、大迫力です。景や七五三衛門はじめ、孫市など、やはり個性豊かなキャラクターが魅力的ですな。
やや残念なのは、石山の門徒に肩入れする景の行動にイマイチ共感できなかったこと。醜女という設定もあまり有効でなかった気も。あとは原典の紹介や説明がやや多くて、「ちゃんと史実に基づいてるんだからね」という部分が多いところ。和田さんは伊東潤と違うんだから、もっとエンタテインメントに徹していいんだけどなあ。
ということで、期待通りの部分と、期待はずれの部分。期待し過ぎかなあと。映画化までされた「のぼうの城」が前作にあったとはいえ、この小説が本屋大賞というのはやや驚きでもあります。
ちなみに大阪弁はなぜ聞く人にダイレクトに響くのか? この本にヒントらしきモノがありました。
主人公の景が石山合戦まで門徒を送る際に、泉州(大阪南部・和泉)の海賊に出くわしたときの話(P232)。海賊の首領が「太田の野郎、(景に切られて)もう首にのっとるやんけ」と言うと、部下がげらげら笑いながら、「(さっき)言うたやん」とツッコミを入れているのです。主人に向けたと思えない泉州人の鷹揚なこの言いように、伊予生まれの景は驚きます。
そこで、和田さんの「泉州弁は極端に敬語が少ない」という解説。方言はただですら敬語が少ないのに、泉州弁はわずかな発音の違いだけで敬意を済ますという横着さがあるという分析です。でも、他の地方の人は、まずその違いがわからないと。