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遡る恋の思い出が胸を締め付ける「ちょっと思い出しただけ」

「ミステリーと言う勿れ」の風呂光さん役ですっかりファンになってしまった伊藤沙莉。なんといってもあのハスキー声でタメ口きかれるとかたまらない!そんな伊藤沙莉は演技派で、正直ミステリーと言う勿れでは宝の持ち腐れらしい。ということで、FB友達の激烈なオススメもあって、彼女が主人公の「ちょっと思い出しただけ」を映画館で観てきた。いやあ、よかった。

 


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公式Twitterより引用

 

以下、ネタバレ含みます。

 

話は伊藤沙莉演じるタクシードライバーの葉と足の怪我でダンサーの道を諦めた照生(池松壮亮)の現在からスタート。現在とはオリンピックを開催したあと、コロナ禍の2021年。二人が出会い、付き合い始め、愛し合い、怪我を経て、別れて、立ち直るまでの6年を巻き戻して再生する構成だ。

 

再生されるのは毎年の照生の誕生日で、照生の部屋の自動カレンダーが日付と時刻を示している。巻き戻しなので、二人がすでに別れてる状態からスタートし、恋のダイジェストを楽しかった過去に向けて振り返っていくというのが、すでに切ない。

 

2時間近くに渡って映像化されているのは、二人の何気ない日常。会話が恐ろしく自然体なので、まるで隠し撮りしてるのではないかと思うくらい。乗り切れない合コンの空気、噛み合わないタクシーの中の別れの会話、なんとなく夜に二人で溶けて行きたくなるような恋の予感。二人にしかわからない会話の中身も、物語が進み、過去に遡れば意味がわかってくる。恋のライバルが登場するわけでも、裏切りがあるわけでもない。淡々と、でもかけがえのない時間を丁寧に描いていく。

 

それぞれの誕生日はおおむね照生が朝起きるところから始まる。同じ日付、同じ夏の日で風景は変わらないのに、照生の行動や心理は毎年違う。足を怪我したときは、ネコにエサをあげなかったのに、ダンサーを諦め照明係として腹をくくってからはエサをあげる日常が戻っている。誕生日だからケーキが出てくるのだが、毎年意味合いが違う。そしていつも通る近所の公園には、毎年その日に奥さんを待ち続ける永瀬正敏。まさに愛だろ、愛って感じ。

 

演技も脚本も良いが、映り込む東京の風景も、グレープバインの音楽も素敵。すべてが噛み合ってる。でも物語の中の二人は噛み合わなくなっていく。吹っ切れないのは、やっぱり男の方かなという感想。ラストを観ると、まさに「ちょっと思い出しただけ」というタイトルに納得がいくし、実際にタイトルが出るのは最後だ。

 

コロナ禍だからこそ、以前はノーマルだったコミュニケーションを懐かしむ意味でもいい映画だった。過去の「たら・れば」を思い出してしまうので、パートナーがいても、この映画は一人で観るのオススメ。