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日本のSF、いやエンタメ小説にとどめを刺す想像力の到達点「三体」

話題の中華SF「三体」を読了した。三体の一部が抜粋された短編集の「折りたたみ北京」を読んではいたが、正直ここまで面白いとは思わなかった。中国現代史、天文学、物理学、ITなどの知識があったほうがよいけど、基本はファーストコンタクトをテーマとしたエンタテイメントで、SFの楽しさを十分に堪能できる。

 

話は文化大革命期の北京からスタート。天文学や物理学を教える主人公の父親にあたる物理学の教授は教え子から西洋的な思想を糾弾され、結局暴行を受けて殺されてしまう。大革命と言うより内戦や虐殺に近いこの文化大革命とそれを巡る中国の近代史をある程度知らないと、読者はこの場面でおいて行かれるかもしれない。中国当局がよくこのシーンにOK出したなと思うが、実際は順番を入れ替えて許可になっているらしい。つまり、日本語版はオリジナルを読めているわけで、中国の人よりラッキーというわけだ。主人公の行動原理となるこの事件の迫真に迫る描写が、自分にとってこの本の評価を高めている大きな要素だ。

 

その後、話は近未来に移り、もう一人の主人公であるナノマテリアルの研究者がなぞの事件に巻き込まれ、ファーストコンタクトに至るまでの経緯が少しずつ明らかになる。がさつな警察官、数学の天才、環境活動家など個性豊かな人物に、ダイナミックな中国の歴史がからみつく、唯一無比なストーリー展開。そして三体の世界を体現するバーチャルリアリティゲームの創造性たるや!歴史上の人物をまるでゲームの駒のようにアレンジしていくシナリオがすごい。

 

正直、ガツンと来た。設定作りに明け暮れてドラマを失った日本のSF、いやエンターテインメント小説に、意図せずとどめを刺しに来ている感じ。勝てると思うのは、「ゲームの王国」(小川哲)くらいかな。あと大森望先生、すごく手をいれて読みやすくしてくれてると思う。ありがとうございます。

 

三部作の最初で、続編は来年とのことだがホントに待ちきれない。

三体

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