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すべての仕事をAIがこなす世界で人間の存在価値を問う「タイタン」

全知全能のAIが仕事をこなす約200年後を描く野崎まどの「タイタン」を読了。コロナ禍でテレワークに大きな注目が集まる中、「仕事とはなにか?」を問いかける一冊。ストーリーとしては正直後半がイマイチだったが、世界観だけで飯が食えるSFではあった。以下、ネタバレあり。

 

タイタン

タイタン

 

 

汎用AIの標準化とロボット技術が進んだ結果、人間は仕事という概念を失い、もはや貨幣経済すら崩壊している今から約200年後の日本が舞台。そんな世界を支える「タイタン」は、人間の仕事をこなす世界に12あるAIのうちの1つ。話はこのタイタンのパフォーマンスが原因不明の要因で落ち始め、心理学を趣味にしていた主人公(仕事ではないので、趣味になってしまう)がいろいろな経緯を経てカウンセリングするところからスタートする。

 

タイタンの本体は物理的には北海道東部のデータセンターらしきところにある。インタビュー読むと原発みたいなインフラ設備をイメージしたらしいが、実際そんな感じの描写だ。依頼主のチームにより擬人化されたタイタンとの邂逅を果たした主人公はカウンセリングに乗り出す。ただそこからの展開はかなり奇想天外で、インフラとソフトウェアの存在だったタイタンが、ロボットとして実体を持ち、そのまま主人公たちといっしょに米国西海岸にある別のAIロボットに会いに行くというもの。

 

巨大ロボット化したタイタンは主人公たちのチームとともに、北海道からカムチャッカ半島に渡り、アラスカ、カナダを通って西海岸まで歩いていくのだが、その経験を通して主人公はAIの人間化を進めていく。美しい風景と自然の中を旅するこの中間部は、AIと人間による奇妙なロードムービーだ。料理をしたり、写真をとったり、買い物をしたり、リアルの経験と対話を繰り返すことで、人間の営みを探っていく。もちろん、そこには仕事の意義も含まれる。

 

で、西海岸に着いてからが終章となり、二人のAIロボットの邂逅で世界はどう変わるかがクライマックス。結局、人間の仕事なんぞは至高の領域に達したAIにとってみたら、もはや片手間でできるものだったという結論にはなるのだが、正直ここまでのストーリーがあまり納得いかなかった。「今日も働く人類へ」をキャッチからは、やや違うイメージの結末。

 

登場人物は極めて少なく、基本的には主人公とタイタンで完結する。最後の方にアクションシーンらしきものも出てくるが、多少華を添える程度で、基本はAIがこなす「仕事」の本質と、仕事がなくなった人間の存在意義を会話や体験で思索するような内容。なにより仕事から解放され、知的労働やクリエイティブな産業までAIに依存している世界観の不気味さたるや。最後は長生きした主人公がこの本を書いた体裁で終わるのだが、明らかにAIによる検閲のタグが付けられており、地球の主が人間からAIに入れ替わったことが読み取れる。壁を越えてしまった世界のデストピア感がなんとなく野崎さんのknowに近いような作品だった。

 

ちなみに装丁は秀逸だと思います!