超情報化のため、人造の脳葉である(電子葉)の移植が義務化された2081年。情報庁に務める主人公は、恩師から託された少女が導く、あまりにも大きな世界の変化を目の当たりにする。
伊藤 計劃の名作「ハーモニー」を彷彿させる表紙に釣られて買ったが、これは素晴らしい。情報化の行き着く先としての脳の電子化・ネットワーク化、世界を変える技術を開発したマッドな博士といった古典的な設定を用いつつも、まったく新しい物語を切り開いている。「全知全能」を目指す人間が目指す究極の「知る」とはなにか? 京都を舞台にしたなぞめいた逃亡劇は最終章に向けて、一気に収束していく。「ハーモニー」とは異なる人間のある到達点を描き出した最後の1文で完全にやられた感じ。
(実に必然性のある)京都という舞台やネーミングセンスもいいし、中心となる2人はもちろん、脇役のキャラも立っている。マトリックスっぽい戦闘シーンや、情報科学的なラブロマンス、手塚治虫のような深遠な宗教解釈なども随所に盛り込まれ、飽きずに一気に読める。ライトノベル出身らしいので、そこでの経験も活きてるんだろうなと想像。