幕末の歴史のほんの片隅に残る「天狗党の乱」。尊皇攘夷を訴える平和的なデモンストレーション集団が、いつの間にか倒幕勢力とされ、激しい水戸藩内の内部抗争に巻き込まれていく。数々の激戦を経て、京都にいる一橋慶喜に己の本意を訴えるべく、中山道をひたすら西に向かうが、そこには宿敵の高崎藩や彦根藩が待ちかまえていた。
「光圀伝」を読んで以来、水戸藩の不思議さはずっと気になっていた。幕府を守る御三家であるにも関わらず、尊皇攘夷の思想が強く、桜田門外の変では脱藩水戸浪士が大老井伊直弼を暗殺している。で、あの不可解きわまりない最後の将軍、慶喜の出身母体。そんな水戸藩の幕末を伊東潤が書いていると知って、なんとなく手に取ってみた。
伊東潤が手がけると、教科書ですら取り上げられない歴史の1ページが、血まみれのドキュメンタリーとして目の前に迫る。3400人いた家臣団を800人にまで減少させたまさに血で血を洗う水戸藩内の抗争を容赦なく書き上げる。身分を問わずに、日本中を煮えたぎらせた当時の尊皇攘夷のすさまじさを驚きを隠せない。