IOIO

IOのInput&Output

圧倒的な読後感。至極の満足度。冲方丁「光圀伝」

750ページという大ボリュームの歴史大作「光圀伝」をようやく読了。会社の行き帰りで持ち歩くのは大変だろうと思い、お盆休みから読み始めたが、ようやく読み終わった。

水戸藩2代目となる光圀を少年期から死ぬまで追い続ける伝記になるのだが、水になるはずだった光圀が兄を差し置いて世子になった出生の秘密、冒頭から最後までを貫く1人の家来の死についての物語、そして死後、水戸家の財政を圧迫し続けるとも言われる歴史書の編纂事業への執念、という3つのテーマを中心に描かれる。破天荒で、スケールの大きい光圀キャラクターに加え、このテーマが大きな背骨として全体を固めているがため、ただ年表を追うだけの小説と読み応えが違うのだ。

そして「天地明察」譲りと言える登場人物の魅力的なこと!宮本武蔵山鹿素行林羅山、沢庵など歴史の教科書で勉強する人物たちが、きちんと血の通った人間として登場してくる。また泰姫や林読耕斎、左近など、光圀の人生に影響を与える人物たちも本当にいとおしい描き方をしている。周りを固めるキャラクターの描き方に関しては、歴史小説の先人たちも含め、この人の右に出る人はいないかもしれない。

その他、御三家と将軍の関係しかり、儒者と仏教の関係しかり、水戸藩と朝廷との結びつきしかり、天地明察の安井算哲との関係しかり、歴史小説としての読みどころは満載。

読者の多くは今までの「水戸黄門」とのギャップの違いに驚き、一方でなぜ天下の副将軍としてここまで愛されるか、納得できるだろう。それだけ非凡の人物だったということだ。結論から言えば、圧倒的な読後感。至極の満足感。「天地明察」を超える「熱さ」がここにある。100m走のスピードでマラソンを走り抜けるような圧倒的なテンションとパワーに脱帽。すごいとしか言いようがない。

 

光圀伝

光圀伝