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2021年の買い物(書籍編)どこまでも奥深い中国とドイツの歴史に触れる

今年はまったのはなんといっても浅田次郎の「蒼穹の昴」シリーズ。アヘン戦争太平天国の乱、義和団の乱などダイナミックな清王朝の終焉を追う。数奇な運命に翻弄される主要登場人物たちの物語は、涙なしに読めない。

そして新しいチャレンジが大木毅の独ソ戦」から始まるドイツシリーズ。「ベルリンは晴れているか」でベルリン戦に興味を持ち、背景知識を補うために読んだが、人類の愚行を振り替える歴史書としても、大量破壊兵器登場以前の軍記としても興味深い内容。実際子供を眼医者に連れていった待合室でほぼ読んでしまった。ヒトラーにすべてを押し付ける既存の二次大戦史観を大きくくつがえす意欲作。呉座さんの「応仁の乱」の40万部は正直全然理解できないけどw、こっちの13万部は理解できる。殲滅戦争の悲惨さを学びつつ、軍記としても一気に読める珍しい新書。

須賀しのぶの「革命前夜」は、社会主義国家時代の東ドイツ(むこうでは東ドイツとは言わないのでDDR)に渡った若きピアニストの成長を描く。青春物語でありながら、ミステリーでもあり、歴史小説でもある。ベルリンの壁崩壊前の東ドイツについてほぼ知識がなかったけど、社会にここまで密告と音楽が根付いていたのね。なにより仕事が保証されている社会主義国家なので、離婚しても女性は生活に困らなかったという話も面白かった。恋愛、友情、そして裏切りが胸に刺さるストーリー自体も骨太なのだが、なにより小説が苦手とする演奏の描写が素晴らしい。これ読んでバッハのビアノ曲がとても味わい深くなった。ドイツ好き、クラシックファンは間違いなく楽しめると思う。これまでまったく知識がなかった東ドイツ共産国家時代とクラシックとの強い関係を知ることができた。須賀さんの本は別の作品も読んでみたい。

一番よかったのは機龍警察シリーズの最新刊「白骨街道」。前作の龍眼殺手は機龍警察の魅力の一つである戦闘兵器の機龍兵が出てこないという驚き展開だったが、今回は舞台がミャンマーということで、武装勢力を相手にした機龍兵同士の大迫力バトルも展開され大満足。一方で物語の背景となるミャンマー情勢が地政学的にものすごく根深いことを痛感する。もちろん骨太な組織間の陰謀戦も健在で、今回はこいつは絶対敵に回したくないよなーみたいな登場人物がまさかの敵でビックリ。攻殻機動隊パトレイバーボトムズの世界観で佐々木譲がガチ警察小説を書いてるような感じなので、気になった人はシリーズ最初からぜひ!まったく妥協ない最新作だった。

ベストだと思っていたこの一冊を抜きそうなのが、アガサクリスティ賞を獲得した「同士少女よ、敵を撃て」。凄惨を極めた独ソ戦の最中、狙撃兵として戦場をかけめぐる少女が失い、そして得たものは?アガサクリスティ賞の「同士少女よ、敵を撃て」、年越しでようやく読み終わったけど、いやあ面白かった!主人公が戦いに身を投じるまでの流れは鬼滅の刃進撃の巨人のような王道イントロだが、人間性を失わせる過酷な戦場描写、ゴルゴ13のようなスナイパー同士の息を飲むような一騎討ち、そして個性豊かなキャラクターのそれぞれの生きざまと決断まで、新人とは思えない精密さと表現力。そして結末は予想を大きく裏切ってきた!脳内BGMはロシアが舞台ということで、歌詞的にもS.A.Cの「rise」(実際、オリガという登場人物も出てくる)がピッタリでしょう。やっぱハヤカワすごいなー!

来年もいろいろ読みたいー!