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リアルな開拓史を冷徹に描く「チーム・オベリベリ」読了

今から約140年前に帯広を開拓した晩成社の活動を中心メンバーの妻の目から語る「チーム・オベリベリ」読了。670ページを越える誌面に刻みこまれたのはひたすら苦難とあきらめの連続だった。


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文明開化の横浜で先進的な教育を受けた主人公のカネだが、縁談をきっかけに夫や父、兄とともに北海道に渡る。そこから約7年に渡って、オベリベリと呼ばれる十勝の大地にさまざまな作物の栽培や牧畜などチャレンジを重ねていくのだが、なかなか前進しない。あるときはバッタが大量発生して作物を食い荒らし、あるときは豪雪や霜で、壊滅的な打撃を被る。ページをめくっても、めくっても、まったく前進しないといっても過言ではない。

 

ともに開拓を志す仲間も一枚岩ではなく、疲弊し、仲間割れし、歯が欠けるように抜けていく。たくましく、優しかった夫もどんどん疲弊し、チーム内で刃傷沙汰にまで発展する。その意味で書名のチームという単語は、チームビルディングや絆ではなく、チームとしての瓦解を意味している。

 

結局、終章にいたっても、オベリベリは開拓者たちを受け入れない。のちに帯広が街として成立する端緒となる監獄の計画が持ち上がるあたりで物語は終わりに近づく。内地から来た実母に「こんな乞食のような部屋」と罵倒された主人公のカネは拠り所にするキリストに祈るしかない。そして、海外の宣教師と英語で会話をするという彼女にとってのサプライズで終わる。実に切ない幕切れだ。

 

ある意味、とても冷徹なドキュメント小説だ夢と大志を抱きながら、それは容易にはかなわない。唯一ともる未来への灯火はアイヌとの共存と次の世代を担うカネの教え子である若者だ。未開の地に降り立ち、なにもないところから少しずつ成功を重ねていくといういわゆる開拓モノのテンプレートを大きく裏切っている。ある意味、とても残酷なドキュメント小説だ。

 

チーム・オベリベリ

チーム・オベリベリ