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過酷な沖縄現代史に埋もれた人間ドラマを描く「宝島」

太平洋戦争後の混乱に満ちた沖縄を幼なじみから固い絆で結ばれた3人の男女の目から描く真藤順丈の「宝島」読了。

 

英雄がいなくなった島に残された少年少女が成長し、一人は警察官として、一人はテロリストとして、そして一人は教師として、激動の戦後沖縄から本土返還までを走り抜ける。「なんくるないさ」を胸に静かに戦い続ける沖縄住民、元特高のサディスト、利権を奪い合う犯罪集団、米軍の官僚や諜報機関など個性あふれた登場人物が3人にさまざまな形でからみあい、米軍基地を巻き込む大きな陰謀に向けて収束していく。

 

米兵の犯罪、戦闘機の墜落事故、基地での大量破壊兵器の保管疑惑、そしてコザ暴動まで、ここまでリアルに基地と沖縄について深く踏み込んだ小説(ドキュメンタリーではない)を沖縄の人たちはどう読むのだろう。圧倒的な怒りと激情、そして祈り。ミステリーあり、冒険あり、恋愛ドラマあり、実に濃厚な一冊だ。

 

沖縄行ったことないのに、沖縄の小説だけやたら読んでいる。ドラマにもなった池上永一の「テンペスト」は、琉球王国末期の王宮を描く大河ドラマ馳星周の「美ら海、血の海」は艦砲射撃や火炎砲にさらされ、帝国陸軍に虐げられ、逃げ惑う沖縄民の悲劇を描く血みどろの一冊。そして、池上永一の「ヒストリア」は沖縄戦後のボリビア移民が革命期の南米をサバイブしていく様を描いており、奇しくもラストが宝島に近くなっている。基地にはいったいなにがあったのか。括弧書きで書かれる脚注的なコメントが鼻につくところはあるが、沖縄を部隊にしたダイナミックで骨太な人間ドラマは、沖縄現代小説の金字塔になるはず。いつか観光地ではない沖縄に行ってみたい。

 

 

宝島

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