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貴志 祐介「新世界より」はダークなハリーポッターか?

さすが貴志さん。すごいよ。傑作だよ!

呪力というサイコキネスを利用できるようになった人間が細々と生活する1000年後の世界をベースに、主人公の少女が自らが体験した不可思議な学園生活や大量殺人事件、化け物との戦いなどを手記として記している。異境の学園ものという体裁の前半は世界の謎を少しずつ解き明かすという流れで、ハリーポッターってこんな感じ?という少年少女の青春物語イメージを持つ。

ただ、世界観はきわめて不穏当で、不浄猫やバケネズミ、業魔などの描写もグロテスク。名称にも漢字表記が多く、ジャパニーズホラーな独特の怖さがある。自走可能な図書館などの発想も面白い。

前半の山はバケネズミ同士の戦いから逃げ出す二人で、スクィーラや奇狼丸などのバケネズミとの邂逅が見物。後編に繋がる、話もふんだんに盛り込まれており、書き方も「今から考えると」というような思わせぶりな表現が多用される。主人公の初恋の人がなんとも理不尽な形で死を迎えるところで、前半は終了する。

 

新世界より(上) (講談社文庫)

新世界より(上) (講談社文庫)

 

 

後半は友との別れと、人間とバケネズミとの壮絶な戦いが中心。駆除されるべき存在であったバケネズミたちが、呪力を持った人間の子どもを業魔として育て、巨神兵のごとき兵器として、人間の虐殺を始める。あのとき、スクイーラをやっつけておけばという感想を持つだろう。主人公たちが決死の思いで業魔を倒すまでの血で血を洗う戦いを描く。途中でマリアの影が消えてしまうのはやや残念だが、後半も高いテンションを誇り、主人公がどんどん精神的に成長していくのがわかる。異世界と化した東京での戦いは、絶体絶命の中、意外な結末を迎える。最後まで息を抜けない展開。

 

 

新世界より(上) (講談社文庫)

新世界より(上) (講談社文庫)